WORK No. 058 トランペッター 1/35 T-90SA MBT
T-90戦車は1992年にロシア軍への採用が決定したものの、1996年までに120両弱が生産
された段階で調達が打ち切られてしまった。
これは当時のロシア政府が深刻な財政難に陥っていたこともあるが、すでに旧式化していた
T-72戦車に小手先の改良を施しただけのT-90戦車は、すでに1990年代の時点で力不足な存
在と認識されていたということであろう。
このためT-90戦車の製造元であるUVZは、T-90戦車を海外に輸出する以外に道が無くなってしま
った。
そして1997年にアラブ首長国連邦のアブダビで開催された兵器展示会「IDEX'97」で、T-90戦
車が
初めて外国向けに公開される運びとなった。
このT-90戦車に最初に興味を示したのは、インドであった。
長年インドと敵対しているパキスタンが1997年からウクライナよりT-80UD戦車、およびその改良型
であるT-84戦車の導入を開始したため、当時のインドは早急に戦車戦力を強化する必要に迫られ
ていた。すでにインドはT-72M1戦車のライセンス生産を行っていたため、同じT-72戦車系列の
T-90戦車を導入するのに大きな問題は無かった。
こうしてインドはT-90戦車を導入することを決め、2001年2月に310両のT-90戦車の購入およびイ
ンドでのノックダウン生産の契約が結ばれた。
これまでに124両がロシアから輸入された他、自国のタミルナド戦車工場で186両がノックダウン生
産されている。
なおインドが導入したのは従来のT-90戦車(オブイェークト188)ではなく、改良型のT-90S戦車(オ
ブイェークト188S)と呼ばれるタイプであった。
T-90S戦車では、オブイェークト187用に開発された新設計の「ウラジーミル」砲塔(ただし、ややダ
ウングレードされたタイプ)が採用されている他、FCSが新型の1A4GT IFCS(IntegratedFire Contr
ol System:統合射撃統制システム)に変更されている。
この1A4GT FCSは、フランスのタレス社とベラルーシの合弁企業が開発した「ESSA」熱線映像装
置を備えており、T-90S戦車の夜間戦闘能力を向上させている。
またT-90S戦車はFCSの新型化に伴って、9K119「レフレークス」の改良型である9K119M「レフレー
クスM」主砲発射式誘導ミサイルの運用が可能となっている。
このミサイルは弾頭が二重弾頭となっており、敵戦車がERAを装着している場合でも一段目の弾頭
でこれを吹き飛ばし、二段目の弾頭で本体装甲を打撃できるようになっている。
さらに、2005年以降に生産された車両では主砲が新型の51口径125mm滑腔砲2A46M4に換装され
ており、集弾性が15~20%向上すると共に、走行間射撃時の誤差が1/1.7に減少している。
T-90S戦車は機動力も大幅に改善されており、ターボチャージャーを備え出力を1,000hpに向上
さ
せたV-92-S2ディーゼル・エンジンを採用したことで、出力/重量比がT-90戦車の18.1hp/t
から2
1.5hp/tへと改善され、これに伴って路上最大速度もT-80U戦車と同じ65km/hに向上
している。
また履帯もT-90戦車のシングルピン型から、T-80戦車と同じダブルピン型に換装されている。
前述のようにインドは310両のT-90S戦車を導入したが、実際に運用してみると酷暑のインドでは空
調システムを持たないT-90S戦車はFCSの故障が頻発した。
そこでUVZは熱帯地での使用に耐えるようT-90S戦車に空調システムを追加し、フランスのタレス
社製の「カテリンFC」夜間暗視システムを導入して夜間戦闘能力を向上させたT-90SA戦車(オブイ
ェークト188SA)を開発した。
インドは2006年にT-90SA戦車のライセンス生産権をUVZから購入し、「ビーシュマ」(Bhishma:古
代インドの叙事詩マハーバーラタの登場人物)の名称で同年に330両、2007年に347両を発注して
いる。
このビーシュマ戦車は、330両がモロッコに輸出されることも決定している。
なおインドが導入したT-90戦車シリーズは「シトーラ1」アクティブ防御システムを装備していな
い。一方、ロシア本国のT-90S/SA戦車もアルジェリアに300両、アゼルバイジャンに188両(内
94両はオプション)、ウガンダに44両、トルクメニスタンに10両が輸出されている。
これらの内アゼルバイジャンが導入した車両のみがT-90S戦車で、それ以外の国は熱帯地向けの
T-90SA戦車を導入している。
<諸元>
全長: 9.53m
車体長: 6.86m
全幅: 3.78m
全高: 2.226m
全備重量: 46.5t
乗員: 3名
エンジン: V-92-S2 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,000hp/2,500rpm
最大速度: 65km/h
航続距離: 550km
武装: 51口径125mm滑腔砲2A46M2または2A46M4×1 (43発)
12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発)
7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発)
9K119MレフレークスM対戦車誘導ミサイル・システム
装甲: 複合装甲